空しき秋
中原中也
老いなる者をして せいひつの中にあらしめよ
そはかれら心ゆくまでくひんためなり,
吾は悔ひんことをほつす,
心ゆく迄悔るは まことにたまをやすむればなり.
ア,果しもなく泣かんことこそ 望ましけれ
ちちもははも
兄弟も共にはた見知らざる人々をも忘れて.
しののめの空のごとく 岡,岡,を渡り行く夕の風のごとく
はたなびく小旗のごとくに泣かんかな
あるは又別の詞の,こだまし雲に入り
のずえにひびき 海の上の風にまぢりて
こと
永遠に すぎ行くごとく.
アア,吾等今日たのために永き間
いとも永き間.
あだなることにかからひてなくことを忘れ
居たりしよ,げに忘れ居たりしよ.