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作曲白秋民謡集「玄海雜曲」 北原白秋
昭和4年(1929年)2月発行
作曲白秋民謡集
玄海雜曲
 
   1
 
瀬戸(せと)は、「乗(の)り出(だ)しまつしよかね。」
早鞆(はやとも)、
疾風(はやて)で通(か)よや、
 
  「ちらちら燈(あかり)は
   下(しも)の關(せき)。」
 
汐(しほ)は一汐(ひとしほ)、
帆(ほ)は輕(か)るい。
 
  「お月(つき)さんも一寸(ちよい)と出(で)て門司(もじ)の岬(はな)、
         ハイ、今晩(こんばん)は。」
 
   2
 
海(うみ)の、「お出(い)でましたかね。」
中道(なかみち)、
ふつりと絶(た)えて。
 
  「あちらは玄海(げんかい)、
   こちや博多(はかた)。」
 
波(なみ)はかたの島(しま)、
離(はな)れ島(じま)。
 
  「お月(つき)さんが一寸(ちよい)と出(で)て松(まつ)のよこ、
         ハイ、今晩(こんばん)は。」
 
   3
 
芥屋(けや)の、「お出(い)でましたかね。」
大門(おほと)の
汐漚(しほなわ)なれば、
 
  「戻(もど)るにや戻(もど)れず、
   浮(うか)ばれず。」
 
果(は)てはしら波(なみ)、
闇(やみ)の泡(あは)。
 
  「お月(つき)さんがちらと出(で)て、岩(いわ)の外(そと)、
         ハイ、今晩(こんばん)も。」
 
   4
 
沖(おき)の、「お出(い)でましたかね。」
小島(こじま)か、
裏向(うらむ)き島(じま)か。
 
  「紅(あか)い襷(たすき)を
   一寸(ちよい)と投(な)げて。」
 
小燒(こやけ)、朝燒(あさやけ)、
すぐ燒(や)ける。
 
  「燒(や)けるなら燒(や)けなはつても、こんがりと、
            サア、また來(き)たね。」
 
   5
 
岸流(がんりう)、「お出(い)でましたかね。」
島(じま)かよ、
十六(じふろく)むさし。
 
  「賭博(ばくち)は好(す)きなり、
   酒(さけ)は飮(の)む。」
 
つまりや、身(み)のはて、
波(なみ)のはて。
 
  「お前(まへ)さんの兩刀(りやうとう)づかひにやかなやせぬ。
            ハア、こりこりだ。」
 
   6
 
博多(はかた)、「お出(い)でまつしよかね。」
しぼりか、
小倉(こくら)の帶(おび)か。
 
  「狐(きつね)は啼(な)き出(だ)す、
   雨(あめ)はふる。」
 
とても、久留米(くるめ)の
紺(こん)がすり。
 
  「おこんさんが一寸(ちよい)と出(で)て萱(かや)のかげ。
          ハイ、今晩(こんばん)は。」
 
   7
 
誰(たれ)を、「お出(い)でましたかね。」
呼(よ)ぶやら、
呼子(よぶこ)の瀬戸(せと)で、
 
  「港(みなと)は何處(どこ)じやと
   平戸船(ひらどぶね)。」
 
波(なみ)に千鳥(ちどり)が
ちりちりと。
 
  「お星(ほし)さんがチラチラと浪(なみ)のかげ
         また、今晩(こんばん)も。」
 
   8
 
九十(くじう)、「お出(い)でましたかね。」
久島(くしま)の
數(かず)ほど通(か)よて。
 
  「今宵(こよひ)は百夜(ももよ)さ
   ただ一目(ひとめ)。」
 
呼(よ)べど呼子(よぶこ)の
はぐれ鳥(どり)。
 
  「お星(ほし)さんがチラチラと浪(なみ)の外(そと)、
         また、明晩(めうばん)も。」
 
これもおなじく博多ぶしである。
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作曲白秋民謡集 北原白秋著
作曲白秋民謡集
 
著者 北原白秋
發兌 改 造 社
昭和4年(1929年)2月3日発行
諸家作曲民謠
 鐘が鳴ります
 馬賣り
 短夜
 六騎
 アイヤンの歌
 かきつばた
 氣まぐれ
 のすかい
 蟹味噌
 紫雲英田
 薄いなさけに
 池の眞菰に
 下りてくれるな
 山と海
 あの頃
 ためいき
 日かず
 芥子の葉
 アリヤリヤンの歌
 繰絲の歌
 鳥かげ
 磯の燕
 海女
 不二の高嶺に
 不二の裾野
 夜寒
 紅吹雪
 山は雪かよ
 沖の大船
 旅の大船
 あかい夕日に
 とまり船
 芭蕉
 紺屋のおろく
 空に眞赤な
 城ヶ島の雨
 萱の千駄も
 島の日永が
 
町の小唄
 びいる樽
 かるい背廣を
 金と�悗箸�
 薊の花
 歌ひ時計
 花火
 忠彌
 帽子ピン
 夜曲
 
伊那と木曾
 伊那
 御嶽
 諏訪
 飛騨の高山
 
大嶋・八丈・小笠原
 大島
 女護が島
 伊達のお腰
 紅い椿
 落つばき
 お國衆なら
 出舟
 沖の小嶋の
 小笠原群島
 佛草花
 驟雨
 夏の宵月
 星の夜
 島で その一
 島で その二
 日の入り
 
博多新調
 博多商人
 玄海雜曲
 
柳河風
 旅役者
 道ゆき
 
樂譜八篇
 馬賣り      山田 耕作 作曲
 城ヶ嶋の雨    山田 耕作 作曲
 鐘が鳴ります   山田 耕作 作曲
 アリヤリヤンの歌 弘田龍太郎 作曲
 沖の大船     成田 為三 作曲
 あの頃      中山 晋平 作曲
 島の日永が    小松平五郎 作曲
 芭蕉       小松 耕輔 作曲

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