一説にドイツ語の「volkslied」(フォルクスリート)を直訳した言葉ともいわれるが、境界線の弾きづらい、あいまいな音楽用語。
各地方に伝承されてきた大衆歌ということだが、イメージの中心には田植え歌、祭り歌など農民、漁民などの実生活に密着した歌であり、遊郭などの「遊び場」で生まれた歌謡は含まれる場合と、ふくまれない場合がある。
また民謡に近い言葉として「里謡(りよう)」も使われていたが、今ではほとんど役目を終えている。
現在、日本で民謡と言う音楽ジャンル、あるいは世界的に広まった同様の歌は、現地で地元の人によって伝えられた元歌を、整理整頓、または大幅に手直したものが多い。たとえば「民謡の宝庫」と言われる東北地方においては、後藤桃水(宮城)、初代鈴木正夫(福島)、成田雲竹(青森)らが各地方の歌に洗練を加え、これが以後の基本、「公式な民謡」となった。
このような新しい歌の流れの中に、大正末期から始まった「新民謡」が加わる。これは「童謡」と同じく、詩人や作曲家によって始められた文化運動で、もともとの各地の伝承歌を学んだ上で新しくその土地にふさわしい歌を残そうとしたもの。信州の
中山晋平 を筆頭とし、
野口雨情、
北原白秋、
西條八十などが数多くの名作を残した。
晋平・雨情コンビによる新民謡の第1作は大正10年の「
船頭小唄」で、これは、のちの演歌にも重大な影響を及ぼした。
新民謡の台頭やNHKを中心とした各地の伝承歌謡の「整理」によって、昔からの民衆歌、大衆歌にはつきものだった闊達な即興性は定型化のもとに退けられ、性の謳歌は卑しいものとして削られた。