|
『ねむの木の子守歌~TEMMA JAPANESQUE』 |
天満敦子といえば、クラシック音楽としては記録的なセールスを上げたルーマニアの「望郷のバラード」(ポルンベスク)が有名だ。
「望郷のバラード(Balada)」は、旧共産党支配のルーマニアから亡命してきた無名のバイオリン奏者が、ウィーンで出会った日本の外交官にその秘めたる楽譜を手渡したところから「ドラマ」が始まったと言われる。
東欧諸国だけでなく世界情勢が激変した1989年、ルーマニアではチャウセスク独裁政権が民衆の手によって倒されたが、歴史の渦にもまれながらも生きる人々の心を映し出したかのような名曲が「望郷のバラード」だった。
「望郷のバラード」、そしてこの秘曲を手にした天満敦子の「ドラマ」は、高樹のぶ子(芥川賞作家)の手によって『百年の預言』(2000年)というルーマニア民主化を背景にした恋愛小説に脚色しなおされ、これがまた話題となったのだった。
天満敦子は、その情熱的で、コクのある音色で多くのファンをつかんできた。「望郷のバラード」の楽譜は、そんな彼女の手許に届けられる運命だったのかも知れない。
そして2005年、彼女の新しい方向性、許容量の大きさを示すCDがまた発売になった。
『ねむの木の子守歌~TEMMA JAPANESQUE』。バッハほかヨーロッパ・クラシック音楽の枠の中だけでなく、これまでシルクロードや日本歌謡にも関心を示してきた天満だが、このアルバムは長年の「追っかけ」だったという小林亜星が深く関わった作品である。
小林は天満のために、「タンゴ・ハポネサ」など3曲を書き下ろし、他に2曲の編曲も行なっている。小林の代表的1曲「北の宿から」も収録されている。そのほか「この道・城ヶ島の雨」「見上げてごらん夜の星を」、そしてビギン〜夏川りみの「涙そうそう」などもあり、天満が演奏すれば「こう変わる」というような自信みなぎる内容となっている。
教科書的に上手いだけ、という人たちが多いなか、やはり彼女は違うと思わせるアルバムである。