かきつばた
柳河の
古きながれのかきつばた
晝はオンゴの
手にかをり
夜はしをれて
三味線の
ほそい
吐息に
泣きあかす。
ケエツグリのあたまに
火ん
點いた、
潜んだと思うたらけえ
消えた。
(註)私の鄕里筑後の柳河は水鄕である。いたるところに水路があり、柳があり、土橋がかゝつてゐる。子供たちがその土橋から夕燒の水にうかぶ鳰を見て噺す。ケエツグリのあたまに火んちいたである。ケエツグリは鳰鳥、關東のもぐつちよである。けえ消えたはかき消えたである。オンゴは柳河の言葉でお嬢さん、ゴンシヤンともいふ。良家の娘にかぎつて呼ばれるのである。これも「朝顔ぶし」の暗示を受けて作つた。