かたみの琴 ---- 大和田建樹/上真行
かたみの琴
大和田建樹
一、
わが 母はいづくにゆきし
手にふれし 琴をみすてて
わが 母はいづくにゆきし
弾きなれし 琴をのこして
塵はらふ 人もなければ
こゑ 絶えて 日は 重なりぬ
二、
片言にくりかへしたる
わが 歌を 汝もわすれじ
ほほゑみし 母のおもかげ
汝が 面にいまもうつれり
なつかしき 指にひかれて
うごきしはあはれこの 糸
三、
壁に 立ちのこれる 琴よ
もろともに 汝も 忘れじ
朝夕にむかひし 影を
目にあまる 愛のひかりを
花も 散れ 鳥もよしゆけ
わが 母の 歌聲かへせ
四、
白月し 空をもしろし
わが 目には 霧こそかかれ
春も 来ぬ 山もわらひぬ
わが 胸はこほりぞとけぬ
いかにせん 母なきやどを
いかにせん 聲せぬ 琴を
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