大正12年(1923年)5月
『「子供達の歌」 第3集』
背くらべ
若くして亡くなった俳人、海野厚(本名、厚一)の出世作となる名作。
歌詞にあるように端午の節句にちなんだ歌で、すくすくと育つ子どもの姿を描いている。1番目の歌詞は、おととしの同じ日に、兄が柱に付けてくれた背丈の印が、今になって見てみればやっとのこと羽織の紐のたけでしかなかった、というもの。柱に小さなキズや印を付けて「背くらべ」をするのは、かつてはどこでも行われており、そんなごく一般的な子どもの日常風景から歌を練り上げたのは、いかにも童謡詩人らしい。
自分の成長に驚く1番から、2番はその柱にもたれて山並みを少年が眺めているシーンへとかわる。旧暦5月は、これから夏にむかって山の緑も空の青も、いよいよ色鮮やかさを増してゆく季節。その、これもまたごく普通の日本の日常がいかに素晴らしいものである(あった)かを、詞の裏側に張りつけた歌だとも言えるだろう。
1番最後に登場する富士山は静岡出身の海野にとっては、特に書きこみやすい存在だったはずである。そしてこのシメの詞のはまり具合のよさは、晋平のメロディ作りの的確さと共に、「富士山は日本一の山」というイメージを日本人に決定づけることとなった。