大正12年4月5日(1923年)
『「赤い鳥」童謡 第七集』
かちかち山の春
日本の民話、言い伝えをもとに新しく歌を作ろうとしたのも童謡詩人のチャレンジだった。白秋のこの歌も「かちかち山」に題材を得たもので、火傷したタヌキや、悲劇を招くことになるとも知らずドロ舟を作るウサギなど、お馴染みの登場人物が描かれている。
しかしこの歌は元の民話とは異なり、生々しい騒動のあいまを縫って訪れた「春の静寂」をテーマとしているようにも聞えてくる。お釈迦様の生誕を祝う花祭りらしい、のどかな春の一日を描いた歌のように見えるだけに、作家陣の気持ちが不気味であるともいえ、こういう歌の裏側にあるらしき暗い意図が見え隠れするのも初期童謡の特色でもあった。