故郷の山 ---- 大和田建樹/辻則承
故郷の山
大和田建樹
一、
こころも 晴れゆく 朝日のそらに
ほのかに 見えたるふるさとの 山。
まぎれぬ 面影かはらぬかたち。
あれあれ 見えたるふるさとの 山。
二、
むれたつ 鴎のひまなき 羽ねに
あらはれかくれてあれ 近づくは
慈愛のかほばせ 楽土のひたひ。
あれあれ 見えたるふるさとの 山。
三、
戀しきわがやはあの 山もとよ。
わかれし 木陰をは 行ゆきて 見ん。
妹と 植ゑたるかきねのすもゝ
丈にもあまりて 身をむすぶらん。
四、
書読む 小窓にかゝりし 薔薇
毬打つ 園生をおほひし 葡萄
かはらで 茂るかむかしのまゝに。
雀は 誰が 手になれてかあそぶ。
五、
こひしき 父母あの 山もとよ。
とびたつ 思をはや 告げまほし。
夢路にかよひし 十年のこゝろ
くまなくかたるは 嬉しや 今宵。
六、
わが 船むかへてなつかしがほに
あれあれ 立てるよふるさとの 山。
別路おくりしすがたのまゝに
あれあれ 立てるよふるさとの 山。
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